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本と映画の感想と雑記の記録

できるだけネタバレなしで本や映画の感想と評価をしていきます。あとおまけで雑記を・・・

葉真中顕作:「ロストケア」の紹介とネタバレ感想を語る  評価:★★★☆☆

社会の中でもがき苦しむ人々の絶望を抉り出す、魂を揺さぶるミステリー小説の傑作に、驚きと感嘆の声。人間の尊厳、真の善と悪を、今をいきるあなたに問う。第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。  

  【この本の紹介】

 社会派サスペンス小説、テーマは「介護」「家族との支えあいという理想と現実」です。それがテーマであることから分かるとおり、終始救いがありません。もっとつらいのは、この物語に救いがないということは、現実のこの国にも救いがないということにもなってしまうということです。

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 【日本における介護の現状】

 この本を語る上で知っておいて欲しい事件があります。それは「京都介護殺人事件」です。これは認知症を患った母を息子が在宅介護していたが、認知による俳諧・介護による失職、そして生活保護も却下され、追い詰められた息子が無理心中を図った事件です。裁判を担当した裁判官が涙を流し判決を述べたことで有名です。

 皆さんにとっても避けては通れない「家族への介護」理想でいえば家族で支えあい在宅介護をすることが健全でしょう。それが杖がないと歩けない程度のものであればまだ在宅介護でも乗り切れるかもしれません。しかし完全寝たきりであったり、重度の認知で徘徊するようなレベルになれば在宅介護は非常に厳しいものになります。

 これほどのレベルになれば施設に入れることを勧められますが、施設入所の場合最低でも月に10万円は必要になります。特別養護老人ホームという、比較的低価格で入れる施設はありますが、100人待ちという所だらけであり、いつ入れるかわかりません。

 また厚労省もさらに3割負担計画・福祉用具レンタル改悪・総合事業など介護制度の改悪・複雑化を進めており、自治体に管理をどんどん丸投げしているため、人員削減でどんどん人を減らされる自治体も限界に来ています。残念ながらこの国の介護業界は全く明るくありません。それは作中でも何度も語られています。

 【本の内容について】

 内容としては介護というテーマによって起こる殺人と介護に様々な形で携わる人間の顛末について触れられ、複数人物の視点に何度も転換しながら話が進んでいきます。

 ただきちんとどの人物についての視点なのかが事前に記載されるため「これ誰のこと言ってるの?」といったことにはならないので安心してください。

 ただミステリー文学大賞を受賞したということですが、ミステリー要素がメインではありません。ミステリー自体はあるんですが、前半はほぼないです。なのでその点がマイナスとなっています。

 ミステリーよりもこの小説が伝えたいのは「介護保険にふるい落とされた人の末路と事業所の悲鳴」というところでしょう。ただ行政側を悪役にしたいがあまり、盛っている部分はところどころ見受けられますが。

 

 【以下ネタバレ感想】

  ロストケア、有り体にいえば他社による安楽死といったものでしょうか。決して褒められたものではありませんが、一方で介護疲れによる共倒れが数多く存在しているのも事実です。認知症の方と接したことがありますが、重度となると会話が成立しないとかそんなレベルではありません。相手にしているのは人間なのか、本気で疑問に感じてしまうほどなのです。体が元気で重度の認知なんて洒落になりません。毎日近所を徘徊し不法侵入、重度の被害妄想、暴行など日常茶飯事になります。言っておきますが作中の認知症の母親の行動、あれはフィクションでなく本当にあのような行動を取ります。

 そんな介護の日々に辟易し、その中でロストケアを歌う彼の存在は、道徳的にいえば家族を奪った悪党ですが、現実でみれば日常を取り戻してくれた救世主かもしれません。